【01Blogx】マネタイズの類型試論

投稿者:hamachi takeshi
2015/02/26 08:01
TechCrunchの「名刺管理アプリEight、プレミアム機能でデータのエクスポートが可能に」という記事から、図らずも「スタートアップにおけるマネタイズとはどういうことなのか」を改めて考えるきっかけをもらいましたので、試論として共有したいと思います。 スタートアップ、特にWeb系においては「当初は無料、そのうち有料化」というルートは事業立ち上げにおいての一種の常套手段のようなもので、ユーザの敷居を下げてサービスや商品の浸透を図るためには有用な手段であることは否めないでしょう。 しかし、いつまでも無料で提供していては売上になりませんので、どこかで課金を開始するか、あるいは課金に頼らないモデルを探すことが必要です。前者はいわゆる「マネタイズ」の問題であり、後者はその多くが「広告プラットフォーム」としての生き方を探ることになります。 ■マネタイズの2類型
マネタイズ、つまりサービス・商品の収益化に際しては、「質的マネタイズ」と「量的マネタイズ」の二つの類型があるのではないか、と思います。どちらの類型のほうが優れているという議論ではないですが、類型によって留意点や効果を発揮するポイントが変わる考えられるので、「このサービスはどちらの類型でマネタイズするのか、そのためにはどうすれば効果的なのか」を整理して捉えることには価値が有るのではと思います。
まずそもそもの話として、マネタイズはユーザのニーズに基づいて行われなければいけません。フリーミアムでも然りですが、ユーザニーズが解消されないのであればタダでもサービスを利用してもらえませんし、ましてや料金を払ってもらうことはできません。ニーズとはなにか、という議論はまた今度するとして、マネタイズは「ユーザニーズがAからGまであった時、A~Cまでは無課金だがD以降は課金」というように、ニーズの間に線引をすることで「結果的に得られる収益を最大化しようとする施策」であると考えています。

■「質的マネタイズ」

課金と非課金の間に質的な違い(今回のEightのようにDLできる/できない)があって、この質的な違いの一方に課金をする場合を「質的マネタイズ」と呼びたいと思います。その質的な違いを超えることが(今回ではDLできるということが)ユーザにとってのニーズであれば、お金を払ってでも利用するでしょう。こうした場合が質的マネタイズになると言えます。

一方で、確かに質的な違いはあるものの、それがユーザニーズではなくいわゆる「Nice to Have」に留まる違いである場合には、マネタイズというより「有料オプション」の提供開始に過ぎません。その場合、現実問題として一部のユーザは支払いをするでしょうがそれは完全に選択的に行っていることであり、記事中のエバンジェリストが言うように「これはマネタイズではなく、さすがに無料では提供できないオプションを有償提供するだけです」という説明が最も正しいのでしょう(ユーザの多くがどう受け止めるかというマーケティングコミュニケーションの問題はともかくとして)。

FREE&CHARGED

大した違いはないようにも思えるかもしれませんが、マネタイズは収益の最大化を図る施策で、有償オプションの提供は単純にサービス機能追加を図る施策です。どちらなのかによって、実際にユーザから得られる収益が大きく違うと考えられます。
こうした質的な変節点を、有償オプションの追加提供ではなくスムーズなマネタイズにするためには、どんなことに留意をすべきでしょうか。
おそらく、「無料で使い始めたときは当該質的変節点をNict to Haveだと思っていたが、使っているうちに確固たるニーズになっていき、しかもスイッチングコストが高くて今さらそのサービスから抜けられない」という状況を準備することが理想と言えるのではないでしょうか。

■「量的マネタイズ」

課金と非課金の間に質的ではなく量的な違いがある場合、これを「量的マネタイズ」と呼びたいと思います。例えば「名刺1,000枚までは無料、その後は有料」といったケースです。そのサービスで提供する機能が一切変わらないまま量的な要素だけで課金が開始されるのことになりますので、有償オプションの追加提供などではなく、「マネタイズ」に該当します。
つまり、仮に課金を避けようとすればユーザは、「それまで享受していた価値(=ニーズの充足)を我慢しなければいけない」という、満たされないニーズが存在する状態に戻らなければいけなくなるということです。質的変節点によるマネタイズをスムーズにするときにもユーザにニーズを抱えさせるという議論が出てきましたが、量的マネタイズを促進するニーズは当初からユーザが持っていたニーズと同じものであり、質的マネタイズをスムーズにするニーズはユーザがサービスを利用することによって生まれたきた「新たなニーズ」であるという点が異なります。

Quantity

量的マネタイズをスムーズにするには、恐らく
 1.サービス利用開始時点では量的マネタイズポイントを超えるとは想像しないぐらいの数値にする
 2.原理的な不可逆性の高い数値に基づく量的マネタイズポイントを設ける
  (ex.名刺枚数は基本的に減らせない)
 3.または、原理的に可逆性が高いことを上記1.を機能させる要素として活用する
  (ex.「ファイルを整理して課金を減らしましょう!」というガイダンスを丁寧に出すことでユーザの課金コントロール感を出す)
 4.事後的に量的マネタイズポイントを設定することは極力しない。
といった点が重要になるのではないでしょうか。

■まとめ

スタートアップにおいて、または企業内のでの新規事業において、ユーザベース獲得や市場浸透の加速のために無料で一定のサービスが利用できるようにするのは意味があることだと思います。
一方でマネタイズのポイントを質的なものにするのか量的なものにするのかをきちんと認識し、それぞれにおいて留意しなければいけない点を明確にした上で各種の施策を打っていけば、場当たり的に課金ポイントを設けるよりも事業の収益化確率が高まるのではないか、と思います。
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hamachi takeshi
執行役員/チーフディレクター(01Dojo管掌、WBS起業部):01Booster Inc.

IIJグローバルソリューションズで新サービスのマーケティング・プロモーションを担当。早稲田大学MBA。「WBS起業部」の元・副代表、現・メンター。WBS起業部では多様なメンバーによるビジネスアイディアの集中ブラッシュアップ「ビジネスプランディスカッション」や起業家のためのプログラミング講座などの内部企画の立案と実施のほか、他のMBA団体・外部組織との連携に携わる。MBAで培った理論的基盤と”サラリーマン感覚”を融合させ、論理とストーリーの構築を軸に起業家を支援する。
【専門分野】経営戦略、ビジネスモデル、知的財産、情報システム
事業創造のエコシステムを活性化させていきます。 濱地健史 執行役員/ディレクター(01Dojo管掌、WBS起業部)

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