稟議制度という日本固有のシステムを考える。
日本型経営がもてはやされた事もあったので必ずしもいつの時代にも問題があるということは無いでしょう。但し、現在の問題は「日系企業の意思決定が遅い」ということであり、これが稟議制度の問題だけではないと思いつつ、日本固有の稟議制度に関して少しまとめておこうと思います。
従業員のモチベーション的には難しいところがある反面、オーナ企業が業績上は良いという話は聞かれます。意思決定が明確というところが大きいかと。長期的であるということもありますね。もちろん、欠点もあるのでしょうが。
合議主義・ボトムアップというのは現在の日本社会の特徴ですね。しかし、必ずしもこれが正しくない事(現在の市場スピードに会わない・ベンチャー企業の経営には合わない)は現在の欧米企業の状況を見ればわかるところです。
そもそも稟議制度とは?ブリタニカ辞典によりますと、下記ですね。ボトムアップ&合議主義です。
日本の公私の組織に共通する伝統的な決定方式。日常的な事務的事項の決定の原案は階統制の比較的低い段階で起草され (稟議) ,全関係者の間を回覧され,彼らがその承認を与えたのち決定権者に提出される。
この論文によりますと、稟議制度の歴史はイエ制度・家父長制度がベースであるとあります。日本文化としてはこれ自体は利点もあるでしょう。利点をまとめると、
- ・一度意思決定した後が早い
・現場の声に合っている(ボトムアップなので)
・全体のコンセンサスを得れる
・組織の意思決定として業務を施行できる。
・経営に参画できる(モチベーションに寄与)
一方で欠点はといいますと、
・個人の職務分掌が今ひとつ明確ではない日本では比較的有効
・ピラミッド構造(階層が深い)とスピードが遅くなる
・責任回避のシステムに悪用される可能性がある
・責任の所在が不明確
・トップに権限が集中しすぎる(一方でトップが明確なビジョンを出さない傾向が日本にはある)
一方で欧米企業ではトップが決めて、部下が「明確な」業務分掌の中で業務を実行し、上司に報告をする(Report to)という感じですね。これはこれで、トップの能力に強く左右されますし(だからインセンティブも高いんでしょうが)、ビジョンが明確ではないと部下も自力で考えたわけではないのでモチベーションが高くならないという感じでしょうか(少なくともその会社に対しては)。
これらを考えると、人数のリミットはわからないですが、小型の組織では稟議制度は日本という文化圏ではそこそこ有効であると。多分、稟議制度とは言わないが、Startupとかでは超稟議制度だったり、トップダウンだったりという感じなんでしょうね。
ボトムアップができることは素晴らしい。合議制はあまりにも人数が多くなると大変。また完全な合議は無理(これは人は個別の考えを持つので)であるとすると・・・日系企業では下記ですかね。
・ビジョン、会社の存在価値、個人の存在意義の明確化
・徹底的な権限移譲、あるいは、実施・非実施のルール化、P/L管理
・稟議単位の小型化(大きな階層型組織ではそもそも難しい)
・トップが現場をよく見に行く
などが考えられますが、今は、停滞・乱世の時代。残念ながら稟議の時代は終わり(または大改善が必要)トップダウンがもう一度必要なのかも知れません。

MBA、理工学修士。東芝の重電系研究所・設計を経て、同社でSwedenの家電大手とのアライアンス、中国やタイなどでのオフショア製造による白物家電の商品企画を実施。村田製作所にて、北米向け技術営業、Motorolaの全世界通信デバイス技術営業を実施、その後、同社の通信分野のコーポレートマーケティングにて全社戦略に携わる。スマートフォン広告のNobot社に参画、同社Marketing Directorとして主に海外展開、イベント、マーケティングを指揮、KDDIグループによるバイアウト後には、M&Aの調整を行い、海外戦略部部長としてKDDIグループ子会社の海外展開計画を策定、2012年3月末にて退社。現在は01Boosterにて事業創造アクセラレータを運用すると共にアジアにおけるグローバルインキュベーションプラットフォーム構築を目指す。