「イノベーション・プラットフォーマーを目指したい」担当者が語る、KEIKYUアクセラレーターへの想い(後編)

2017.12.31

 

こちらは2/2記事目になります。

都心と海を結ぶ、彩り豊かな沿線

 他の鉄道会社とは違う、京急さんならではの特色を教えていただけますか。

橋本 まず品川エリアですね。これから大規模な再開発が計画されており、非常にポテンシャルのある場所です。そして品川から11分でアクセスできる羽田空港。海外とのハブになっている場所を抑えている点は大きいですね。

そこから繋がる川崎・横浜。神奈川の商業集積地もまだまだポテンシャルがあると思います。特に横浜は、イノベーションという意味では、渋谷などと比べるとまだ進んでいない。

2019年に、我々が本社を移転することもあり、横浜をこれからイノベーションの拠点として盛り上げていけるのではないかとも思っています。

そこから三浦半島方面に南下していくと、今度は自然豊かな景色が続いていきます。海や漁港、自然豊かな観光地があり、あまり知られてはいませんが、本当に素晴らしい場所が沢山あります。

 先日、城ヶ島で合宿をさせていただきました。とても素敵な場所で、心が癒されました。

橋本 そうでしたね(笑)。城ヶ島もとても素敵な場所ですよね。

 魚が美味しくて、最高でした。宿の目の前が見渡す限り海で、すごく良い場所ですね。

橋本 関東ではあまり見られないような景色ですよね。僕も会社に入るまでは、正直あまり知らなかったので、そういう観光地や自然豊かな場所が沿線にあるのは、京急の特徴ですね。

実は関東の私鉄の中で、海が沿線にある鉄道会社ってそんなにないんですよね。だからそういう点でも、沿線の表情がすごく豊かで、私鉄の中で1番おもしろい沿線だと勝手に思っています(笑)。

 京から浜まで、まさに名前通りの表情豊かな鉄道ですね。景色が様変わりするのは、乗っていてとても楽しいですよね。

橋本 スタートアップの皆さんにとっても面白いことができる沿線ではないでしょうか。あと三浦半島は、空き家などの社会課題が顕在化しているので、解決しがいがあるエリアだと思います。

先日の説明会では、神奈川で自分の地元をどうにかしたいという志を持った起業家が沢山来てくれました。スタートアップだとやはり東京がメインなので、東京のプレーヤーが殆どなのかと思っていたら、「神奈川でこういうこと考えています」「横須賀でこんなとやりたいです」とかなり来てくれていました。そこは意外な発見で、我々としても大切にしていきたいですね。    


イノベーションを起こし、沿線を価値の高い地域にする

 そういった方々とお出会いする中で、今後アクセラレーターをどのように進めていこうとお考えですか。

橋本 当社の新規事業を起こしていくことも勿論重要ですが、俯瞰して考えると、日本に対してイノベーションを起こしていくようなことができないと、結局日本という基盤でビジネスをしている我々は生き残っていけません。

メーカーさんの場合、日本で売れなくなったら、例えばアフリカなど伸びている海外市場に移ればいいですが、鉄道会社の場合、丸ごと海外へ行くことはできないため、日本が衰退すれば一緒に沈んでしまいます。

お膝元は東京・神奈川ですから、やはりこの場所での生産性を高めるためにも、イノベーションを連続的に起こすことが大切になります。

最先端の技術や新しいプロダクトを集積して、住んでいる方のライフスタイルをもっと良くしていくこと。沿線を価値の高い地域にしていくことが目標ですね。

そのためには当社がハブになり、色んなプレーヤーを集めること。大企業やスタートアップ、NPOや行政も含めて、京急というプラットフォームが、地域全体にイノベーションを起こす起点になること。それが最終的にやりたいことですね。


 ローカルから起こすイノベーション

 チーム内では、細かくKPIを追っていますか。

橋本 いえ、そこまではしていないです。今は走りながらその都度考えています。採択企業数や、何社出資するなども目安としては持っていますが、絶対的な数値は置いていないですね。

究極は、このオープンイノベーション活動が新規事業企画室でなくとも、当たり前にやっている状態にまで持っていきたいですね。そういう意味では、チームの目標としてはそこを目指していくべきではないかと思います。

 ちなみに、橋本さんご自身の目標・ビジョンについて、何か想い描いていることがございましたら、ぜひ教えていただけますか。

橋本 これからはローカルでイノベーションを起こしていかないと、日本は本当に衰退してしまうと思っていて、そういった危機感を根底に持っています。鉄道会社というローカルな地盤を抑えている企業で、いかにイノベーションを起こし、地域を変えていけるか。地域を変えていけば、それが日本のモデルケースとして横展開し、日本全体が変わっていくと思います。

鉄道会社という舞台装置の中で、どのようなインパクトを日本全体に働かせることができるかを、常に考えていきたいですね。


日本の企業は変化のスピードが遅い

 今回のこのお話の中で、会社としても個人としても「日本」というキーワードが沢山出てきましたが、橋本さんは今の日本をどのように捉えていますか。人口や事業創造の観点はあると思いますが、一個人として、今の日本で一番解決しなければいけない課題は何だとお考えですか。

橋本 偉そうに語れる立場では全くないですが、日本人は人の目を気にしすぎる、空気を読みすぎる。結果として、変化のスピードが遅いことが、日本全体の課題かなと感じます。

一方、日本的な企業には良さもありますよね。例えば当社もそうですが、全社で運動会をするなど、企業が家族的なところとか。結果を出さなければすぐクビという世界より、こういった世界のほうが本当は住みやすく、実は生産性も高い働き方ができるのではと僕は思います。

数十年前には日本の文化や働き方で、圧倒的に世界に勝っていたわけですよね。そういう時代があって、今は負けてしまっている。

日本がかつて何で勝つことができたのかをきちんと見直し、それを現代版にアレンジすることが必要だと思っています。全部アメリカ的な感じにするのはちょっと違うのかなと。イノベーションのやり方も、日本式のやり方があると思いますね。


イノベーションを起こせるリーダーとは

 日本人は、アメリカブランドにすごく弱いので、どうしても目線が向こうに寄ってしまい、流行っていることや、上手くいっているやり方をすぐ真似しようとしますが、それぞれ合う合わないがある。

橋本 そうですよね。日本人も気づいていない日本的経営の良い部分が沢山あると思います。

 エリック・リースのリーンスタートアップも、元々は彼がトヨタ生産方式を学び、それをシリコンバレーで体系化して、日本へ逆輸入していますが、彼の役割を本当は日本人ができると良いですよね。

先ほど橋本さんが仰っていた、元々の仕組みを観察し、再定義していくプロセスは、中の人はバイアスが掛かっているため中々気づき難い。イノベーションを起こすには、いかに自分のバイアスを壊して、見えていないものを見えるようにするかが大切ですね。

橋本 大事ですね。イノベーション起こせるリーダーってどんな人だろうと思って、最近「逆転のリーダーシップ」という本を読んだら、なるほどと思うことが書いてありました。

最近はリーダーと言ってもパッと浮かばないようなリーダーが増えてきていると。知らないうちに、いつの間にか周りを巻き込んで11つの才能を纏めあげていき、同じ方向に向かわせる。そういうリーダーがこれからは求められてくるんだ。ということが本に書いてあり、まさにその通りだなと思いました。

日本のイントレプレナーも、1人が圧倒的に立つというよりは、素晴らしい技術や知見を引き出し、それを繋げていくことができるリーダーが、イノベーションを起こしていくと最近思っています。


アクセラレーターは、色んな才能を繋げることができる

橋本 そういう人と、このプログラムを通じてコラボできたらいいですね。このアクセラレーターは、色んな才能ある人と繋がることができるので、社内の人に刺激を与えるという意味でもすごく良いプログラムですね。

 社内の変化は中々表には出ていない情報ではありますが、ある実施企業では、アクセラレーターに関わった担当者の方が影響を受け、実際に新規事業創造をしています。イントレプレナー精神が培われた良い事例ですね。

橋本 なるほど、それはすごいですね!そういえば、この前ヤマハさんのDemoDayに参加させていただいてびっくりしました。カタリストの方々が、自分の時間を投げ打って、スタートアップの人たちに協力をして、一緒に成果を出されていましたよね。

また、自分たちの強みや至らない部分にもちゃんと気づいて、自分の言葉で語っている姿を見て、「この人たちはすごい!」と感動しました。アクセラレーターの効果は、ここなんだろうなとすごく思いましたね。

 Slackでのやりとりを拝見していると、とても密にコミュニケーションを取られていました。課題を一緒に見つめていき、一緒に検証方法を考え、その検証結果を一緒に分析されるなど、チームによっては朝から夜遅くまでやりとりされていましたね。スタートアップの創り上げていく気持ちが、社内の方々に伝播したのかもしれません。


イノベーション・プラットフォーマーを目指したい

橋本 経営共創基盤の冨山和彦さんが、ローカル経済にこそ日本の復活の鍵があるという話をよくされています。

グローバル経済の世界では激しい競争の中で、生産性もどんどん高まっていて、例えば自動車業界だとトヨタやBMW、テスラなどが熾烈な戦いを繰り広げていますよね。ところが、ローカル経済の世界はまだまだその辺りが甘いです。要は、生産性が全く高くないですし、グローバルの世界と比べれば競争も今までそれほどなかった。

しかしながら、IoTAIなどのテクノロジーが発達してきて、鉄道会社を含めたローカルのプレーヤーもそういう状況から逃げられなくなってきています。いかにローカル経済の生産性を高めていけるかが、今後の日本を占うポイントだと思っています。その文脈の中で、鉄道会社の担う役割は非常に大きいと感じています。

 最後に、ゲストの方に所縁のあるキーワードについてお聞きしているのですが、橋本さんにとって「鉄道」とはどういう存在ですか。

橋本 日本の場合、鉄道は生活のインフラとして根付いているため、我々は今後も親しい存在であり続けると同時に、世の中に常に新しい価値とインパクトを与える存在でありたいと考えています。

目指すところは、イノベーション・プラットフォーマーといったところでしょうか。そのためにも、まずはアクセラレータープログラムを成功させたいですね。

 貴重なお話ありがとうございました。


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