今年3年目となるKIRINアクセラレータープログラム。2018年は「Make A Future With KIRIN ~さらなる未来を描こう~」をキーワードに、酒類、飲料、医薬、バイオケミカルを中核とする多様な事業を展開するキリンのノウハウを活用しながら、健康で豊かな生活の実現にむけて、一緒に革新的な世界を創造する起業家・事業家を募っています。
そんな中、今回からアクセラレーター運営に携わるキリングループの杉浦さん、服部さん、平松さんに、グループの強みやどんなベンチャー企業にお会いしたいかなど、アクセラレーターへの熱い想いを伺ってきました。
■ゲスト
杉浦 政敏 氏(Masatoshi Sugiura)
■インタビュワー
キリン株式会社 経営企画部 兼 キリンホールディングス株式会社 グループ経営戦略担当 主務
服部 大介 氏(Daisuke Hattori)
協和発酵キリン株式会社 経営戦略企画部 マネジャー
平松 一成 氏(Kazunari Hiramatsu)
協和発酵キリン株式会社 経営戦略企画部 マネジャー
辻 孝次(Koji Tsuji)0→1Booster
辻孝次(以下:辻) 今日はどうぞよろしくお願いいたします。まず、服部さんは今までどんなことをされてきたのか、ご経歴を教えていただけますか。
服部大介氏(以下:服部) 私自身は元々キリンビールに入社しましたが、現在は協和発酵キリン株式会社に出向しています。
平松一成氏(以下:平松) ちなみに杉浦さんも含めて3人とも別のグループ会社からの出向組です(笑)。
辻 あ、そうなのですね。
服部 はい、実はそうなんですよ。社内の人材交流はわりと盛んで、キリンから協和発酵キリン、協和発酵バイオ。その逆のパターンの人材交流も積極的にやっているので、私たちのような人間は珍しくはないですね。
(写真:服部氏)
辻 グループ内を行き来する例は多いのですね。
平松 経営統合(2008年)の初めの頃はそうでもなかったと思いますが、最近はグループ内の交流を進める動きがありますね。
服部 今の磯崎さん(キリンホールディングスの代表取締役社長)が就かれてから、ヘルスケア領域に力を入れていこうという方針に変わり、それが強く反映され始めてからの動きとして出てきています。
私は元々ビール営業から始めて、その後ホールディングスの人材開発を経て、経営企画の仕事をやりました。そこから経営管理的な取締役会の仕事、ヘルスケア領域や技術部門の交流の仕事、あとは社外のベンチャー企業との接点を作る仕事などを今はやっています。
辻 なるほど、すでに社外との接点を作られている経緯で、今回KIRINアクセラレータープログラム(以下:アクセラレーター)の担当者に任命されたのですね。
服部 そうですね。キリンホールディングス全体として、協和発酵キリンがやっている医薬そのものや、お酒や飲料以外のヘルスケア領域を育てていきたいという方針があります。その流れから、今回協和発酵キリンと協和発酵バイオが、このアクセラレーターに参加していると理解していますね。
ビジネスに慣れていない研究者を応援したい
辻 平松さんはいかがでしょうか。
平松 私は協和発酵バイオからの出向で、今は協和発酵キリンにいます。それまでは原薬(医薬品の有効成分)の営業を国内外でやっていたので、世界各国の会社とお付き合いをさせていただいていました。
今はキリンホールディングスグループ内の様々な協働研究や協働事業などを担当しています。以前からスタートアップを応援したいという想いがあったため、今回アクセラレーターに参加させていただく機会を得たということです。
(写真:平松氏)
辻 そうだったのですね、海外はどちらに行かれていたのですか。その際もスタートアップとの絡みはありましたか。
平松 アメリカに4年、インドに3年いました。アメリカでは、ボストンなどにベンチャー村のようなベンチャー企業が集中している場所があります。当時は、本社開発担当者の出張アテンドで、そのような所に行って話を聞いたりしていました。ですから「上手くいっているベンチャー企業はこういう感じ」という肌感覚はあります。
辻 そうなるとアクセラレーターのような動きは慣れていらっしゃいますね。
平松 そうですね。開発製品の紹介や共同研究のパートナー探しにベンチャーだけでなく大手メーカーの研究所にも行きました。幅広くお付き合いしていましたので、ある意味慣れていると思います。
辻 その中で、今回のアクセラレーターにはどんなことを期待されていますか。
平松 世の中には、色々な研究や技術開発をされているベンチャー企業がいると思います。中には研究では成果が上がっているけど、社会還元する部分が上手くいっていないところもありますよね。そういった人たちを応援したいと思っています。
ですからアイデアがあって資金ニーズが主なベンチャー企業よりは、愚直にずっと研究していたけれど、ビジネスに繋げるところで上手くいかない人たちを応援したい。一緒に考えたり、パートナーを探したり、などができたらいいなと思っています。
辻 技術者や研究者のなかなか踏み込めないところを、御社が補って成長のお手伝いをしていくイメージですね。
平松 そういったお手伝いができたら良いなと思います。事業展開の身動きは早いほうが良いのですが、ベンチャー企業の中には「大企業が絡むと、スピードが遅くなるのでは」と懸念される方がいると思います。ベンチャーのスピード感についていく様、我々も意識しています。
一方、企業の信用力やネットワークをビジネスに活用することができれば、ベンチャー企業には価値を提供できると思うので、躊躇せずご応募いただければと思います。
ちなみに、協和発酵キリンの前身である協和発酵工業は、元々研究所から始まった会社です。研究から色々なものが出てきて、それを事業化しているので、変わった研究成果を事業化するところは経験があります。研究をベースとしたベンチャー企業とは、結構親和性があると思っています。
辻 技術シーズのビジネス化に慣れていらっしゃるのは、御社の強みですね。
平松 また、キリンホールディングスの事業会社は、飲料、酒類、食品、医薬と色々あり、それぞれの業界に対して知名度とネットワークがあります。それを活かして、ベンチャー企業の支援ができると思います。
辻 昨年採択された方々も、御社とコラボすることにより、営業や知見の支援を受けて進んでいた印象があります。
平松 営業や知見の支援は、その業界に通じてないとなかなか難しいですから、お役にたてれば嬉しいです。一方、研究でも色々な業界に繋がりがあると面白いですよ。
各業界に向けた研究所がキリンホールディングスグループにあります。その異分野の研究員が「業界横断で色々なテーマを研究しましょう」という活動をしています。いわばグループ内に「エコシステム」があるような感じです。
場合によっては、そういう研究のコラボをしている人たちが、アクセラレーターに採択されたベンチャー企業のところに入って、一緒に事業について考えるのはあり得る話だと思います。
ヘルスケア領域の起業家はぜひ応募を
服部 中長期の協和発酵キリンの方向性として、今まさにグローバル化を進めています。今年に関しては、実際に医薬品が欧米の市場に出て、これから伸びていくステージにあります。さらにその先を考えると、医薬品周辺や医薬品の領域を超えたところでビジネスをやっていくことも考えられます。
なので創薬のベンチャー企業ももちろん歓迎ですが、幅広くヘルスケアの領域で活動されている方々に、今回ご応募いただけると嬉しいですね。
我々も医薬品周辺や医薬品の領域を超えたところは、それ程経験があるわけではないので、ぜひベンチャー企業の力も借りながら一緒に開拓していけると、何か面白いことが出来るかなと期待しています。
辻 ヘルスケアのどの領域でも良いので、そこの課題にチャレンジしている起業家はとりあえずご応募いただくと、何かに繋がるかもしれませんね。ちなみに事業フェーズの目安はありますか。
平松 0→1→10フェーズでしょうかね。技術はあるけれど、それを事業的に形にする過程で支援が欲しいところは、我々がお手伝いしやすいと思います。
辻 それはもうスタートアップとしては嬉しいですね。その0→1フェーズで悶々とされている起業家はたくさんいますからね。
平松 技術シーズは持っていないけれども、新しい発想でサービスを作りあげたい人が応募しちゃいけないかというと、そうではありません。いろいろな得意分野を持つ方々が集まるのは面白いと思います。
個人的には、応募者同志で一緒にやるもアリと思っています。できるだけ間口は広くしたいですね。大企業でも、自前ですべてを賄って事業をする時代ではないので。
異質なものから、新しいものが生まれることがあります。異質の組み合わせによる化学反応ですが、これはやってみなければ分からない。空振りだったり、新しいものが生まれても「思ったものとは違ったね」だったり、するかもしれませんが(笑)。
ですからアクセラレータープログラムは、そういう異質なものと出会うチャンスでもあると捉えています。
信念とオープンマインドのバランスが大事
辻 領域や事業とは少し別の話題で、我々が色々なアクセラレーターを見ていると、プログラム中のパフォーマンスに影響を与える一要因として、運営者と採択者の相性もあると感じています。そこで、一緒に事業創造するならこういった方だとやりやすい、または「この特性の人と一緒に働きたい」などはありますか。
平松 仕事をするからには、社会に役に立つものを出したいと考えています。「こんな製品があったら便利だね」とか、「こういうサービスがあったらいいね」というアイデアがあっても、自分1人で全部できるわけではないので、会社や組織を通じて出せたら良いなと思います。
ですから、自分の中に何か持っているものがあって、それを「世に出してみんなに喜んでもらいたい」と思っている人を応援したいですね。
辻 課題解決型やビジョナリーの起業家はバッチリですね。服部さんはいかがですか。
服部 私はオープンマインドな方と一緒に仕事したいですね。例えばプレゼンや話すのが上手じゃなくても全然問題ないです(笑)。そんなことよりも、オープンマインドで建設的に意見交換できることのほうが大切かなと思います。
私自身もそうありたいと思うので、お互いに学び合える関係を構築できたらいいですよね。だから今回のアクセラレーターでは、まずは我々からオープンになって、ベンチャー企業と接して意見交換できればと思いますね。
辻 ある投資家は起業家と交流する際、その人が悪いことも含めて全てオープンに話すかどうかを、よく観察しているようです。良いことばかりで悪いことを話せない人は、もし万が一事業が上手くいかなくなった時に、その事実を隠蔽する傾向があるからだそうです。だからどちらも話す人なのかをチェックしていると。
服部 そうなのですね。これはより大事に思えてきました(笑)。
辻 01Boosterが過去に開催したアクセラレーターでも、メンタリングにどんどん来て色々相談してくださる方は、やっぱり伸びていますね。多い方は他の方の倍以上メンタリングに来られます。
服部 オープンさは大事ですよね。ここだけは譲れないという部分は持っていてほしいですが、周りの意見も聞きながら、それが良い化学反応となって昇華していくのが理想的だと思います。
辻 起業家は想いの強さが前提としてあるので、譲れない部分が割合として多いです。それは自分が起業した時のことを振り返るととても理解できますが、バイアスがかかり過ぎて客観性を失うのは良くない。そうすると必要のないものを生み出したり、間違った方向に進んでいることに気づかないまま進んでいきます。
その状態で事業創造しても、問いの立て方を間違えたり、検証結果を色眼鏡で見たり、自分の都合の良いパラメータだけ拾い上げたりするので、最適な仮説検証では無くなりますよね。
服部 そうだと思います。頑固とこだわりは違うので、聞く耳を持った上での判断ができたり、広く状況を読み取れるオープンマインドの方は大歓迎ですね。
辻 ありがとうございます。では最後に、杉浦さんいかがでしょうか。
(写真:杉浦氏)
杉浦政敏氏(以下:杉浦) 私は医薬の営業をやっていたので、ちょっとした感動というか、人の心を動かさないと売れないと思っているんですよね。それはモノとしてすごく優れているのも大切ですが、それを売りに来た人柄とセットで生まれるものだと思っています。
だからこの人のために何かしてあげたい、そう思えるような人がやっている事業は、上手くいく気がするんですよね。周りの人もサポートしてくれると思います。
辻 以前、組織の行動特性などを研究されている方から、真のリーダーについてのお話を伺ったのですが、その方の研究でわかった特性として「思わずみんなが助けたくなる人」が真のリーダーであると仰っていました。本人が気づかないうちに、周りの人たちを自然と巻き込んでいくような方が、次世代を担う真のリーダーのようです。
リーダー本などを読んで意図的にやる人よりも、それを自然にやっている人が真のリーダーということで、先ほどの「この人のために何かしてあげたい」と思える人はドンピシャですね。
杉浦 まさにそれですね。私はそれが起こる要因としては、信念とオープンマインドのバランスによるものじゃないかと思っています。芯はしっかり守りつつも、やっぱり色々な意見を聞いて柔軟に変えていける人。どんどんブラッシュアップしていける人。
そういう人は、みんなにこれ良いなと思ってもらえたり、ダメなところがあってもサポートしてあげたいって思えるんじゃないかなと。そういう人とご一緒できたら楽しいなと思いますね。