「手触り感のあるサービスが生き残っていく」バンダイナムコホールディングス田口社長が語る、エンタメ業界の未来とは(前編)

2018.09.19



■ゲスト
田口 三昭 氏(Mitsuaki Taguchi)
株式会社バンダイナムコホールディングス 代表取締役社長CEO。1958年 秋田県生まれ。82年明治学院大学法学部卒業、バンダイ入社。99年ベンダー事業部部長、2003年取締役、06年常務取締役新規事業政策担当、12年代表取締役副社長グローバルメディア政策・人事政策担当、15年6月より現職。


■インタビュワー
鈴木 規文(Norifumi Suzuki)
株式会社ゼロワンブースター代表取締役CEO。カルチュアコンビニエンスクラブで経営企画室を経て、コーポレート管理室長(兼)財務グループIRチームリーダー(兼)人事グループ人事リーダー。その後、次世代型アフタースクール『キッズベースキャンプ』を創業し、東京急行電鉄に事業売却。同社取締役を退任後、株式会社ネクストマーケットを設立、代表取締役就任。2012年3月、01Boosterを運営する株式会社ゼロワンブースター創業。


鈴木規文(以下:鈴木) この度は、田口さんとのお話楽しみにしていました。どうぞよろしくお願いします。

田口三昭氏(以下:田口) こちらこそよろしくお願いします。

鈴木 世間では、ディズニーさんがコーポレートアクセラレータープログラム(以下:アクセラレーター)を先駆的に行われていますが、世の中では社外のプレーヤーと組む動きが盛んに行われていますよね。そういったオープンイノベーションの息吹みたいなものは、業界内で感じられますか。

田口 感じています。ディズニーさんのアクセラレーターに関しては、スターウォーズのBB-8の事例など、バンダイナムコスタジオのメンバーからも色々な情報共有を受けていました。

我々もグループ内に閉じず、社外の方々と創造する機会が、もっとあっていいと考えています。それは世の中の雰囲気だけではなく、グループ内からもそういった声が多数あったので、今回のアクセラレーター開催に至りました。

鈴木 元々御社はパートナーシップや、社外のプレーヤーと組むことに慣れている企業だと思いますが、今回のスタートアップとの協業は、今までとは違う特別な位置付けでしょうか。

田口 例えばAIやVRなどの新しい技術を市場に出して、世の中の人たちに理解・浸透させることを目的とした場合、効果的な表現の手段の一つがIP(Intellectual Property=キャラクターなどの知的財産)です。ですから世の中のデジタル化が進むほど、IPニーズもさらに高まっていくと感じています。

これまでもグループ外からの技術協力や提案をたくさん頂いたのですが、この時代の変わり目に、その潮流が一気に来ているのを感じています。その中で今回のアクセラレーターは、その取り組みとメッセージを、社内外に広く浸透させることに繋がると考えており、特別な位置付けと捉えています。

手触り感のあるサービスは生き残っていく

鈴木 少し業績についてお聞きしたいのですが、昨年度の素晴らしい業績は、まさに御社の強みであるIPが活躍した結果でしょうか。

田口 これは我々が今変化を感じているデジタル化が、ビジネスの中でも色濃く出た結果だと思います。とくに第4半期で、見込み数字よりも大幅に拡大できたのは、国内外のネットワークコンテンツと家庭用ゲームソフトの海外販売だったんです。通常のパッケージ販売も好調でしたが、最近はダウンロード型サービスが非常に増えてきています。

そのような変化の激しい世の中だと捉えており、短期間にたくさんの評価が得られる時代。そういうことが凝縮された前期でしたね。

鈴木 ノンパッケージ流通は、これからもっと進んでいくのでしょうか。

田口 そう思います。デジタルを活用しないサービスの時代に逆戻りはできないと思いますが、リアルなパッケージがなくなることはないと思います。映像やゲームのクオリティが良いことは大前提として必要ですが、パッケージのビジュアルボードや付加価値の高い小物によって、よりIPの世界観を伝えることができます。すべてがデジタルで代替されることはないでしょう。

鈴木 デジタルとフィジカルでの感触が、相乗効果で良い体験をつくっていく感じですね。

田口 そうです。デジタル化は一層進むと思うのですが、デジタル化が進めば進むほど、むしろアナログなものも求められます。今期待しているものに、ライブビジネスやe-sportsがありますが、やはりファン同士の体験を共有する方向に欲求が向かっているということだと思います。

新しい価値をファンに感じてもらうスタイルとして、一層のデジタル化による消費者の利便性を高める方向と、アナログでIPを質感的に体験できたり、他人と一緒に楽しめるようにする方向の二つがあります。

それらはデジタル化が進めば進むほど、相反するアナログも価値が伸びていくような気がするんです。だから我々としては、IP価値を最大化するために、両方のビジネスを常に考えるようにしています。

鈴木 それは、まさに御社が得意な領域ですよね。元々別会社だったおもちゃのバンダイさんと、ゲームのナムコさんが手を組み、10年前から先駆けて仕込んでいたということでしょうか。

田口 仕込んでいた訳じゃないです(笑)さすがに当時は、ここまで具体的に想定していたわけではないです。

おもちゃというのは、手遊び的な感覚がどうしても必要です。触ってみた時の、実際のロボットの質感や合体感は、映像を見るだけでは体感できないです。かといってゲームなどのデジタル体験も大事な領域です。そこでお互いの強みを生かすために手を組み、今に至った…というのが実態なのでしょう。

鈴木 デジタルとリアルの中庸点を探す活動は、実は多くのプレーヤーが不得意です。モノづくりはモノづくりで邁進するし、デジタルの人はデジタルに極端に寄っています。

異質なものを組み合わせるのがイノベーションの本質ですが、これは言うほど簡単ではなく、多くの企業が苦労しています。それを御社は、何気に自然にやっていることに今気づきました。

田口 たしかに何気なくやっていますね。

鈴木 意図せず、気づいたら逸脱した組み合わせをしていた?

田口 そういうことになりますかね(笑)きっとIP価値を最大化するために、お客さんと向き合う強い気持ちから、必要なものを生み出したい、と行動した結果、生まれたものだと思います。

だからアクセラレーターも、例えばガンダムのIP価値を最大化するために必要な技術、ビジネス、サービスなどをお持ちの方は、アイデアベースでも構いませんので我々と一緒にやりませんか。というのがわかりやすい提案なのかなと思います。

鈴木 色んなIPに対してデジタルに限らず、アナログも含めて様々な企画をいただいたほうが、御社としては相乗効果が生まれますね。

田口 そうなんですよ。IPをデジタルで表現した時に、映像だけじゃなく、そのものを立体的に見てみたいというお客さんはたくさんいます。それは他のIPでも同様なことが言えます。

そういうデジタルをみんなが触りだした時に、アナログ技術でデジタルでは補完できない新しい嗜好性、情緒感。そういった両方の振れ幅を、今回のアクセラレーターで期待しています。


キャラクター愛がある人とのお付き合いが多い

鈴木 田口さんの中で、今回のアクセラレーターはどんな人たちとコラボしたいですか。

田口 とくにどんな人というのはないですが、強いて言えることは、過去のタイアップなどの場合、先方の担当者がものすごくガンダム好きだと一番成功します(笑)

 「うちとガンダムで取り組ませてもらったら、ビジネス上で○○○の相乗効果が生まれる」などと難しいことを言うんじゃなくて、「ガンダムをいじりたいんです!」「このキャラクターが好きで、うちにこういう新しいものがあるので一緒にやらせてもらえませんか!」のほうがわかりやすいですよね。今まで取り組ませていただいた方々は、そういうキャラクター愛のある方が多いです。

そういう意味では、過去の共創では個人・法人など分け隔てなくですが、ただ1つの共通点はキャラクターが大好きであること。ガンダムの世界観を分かっている人から、こういうことをしたいって提案してもらえたほうが、やっぱり嬉しいですし、一緒にやっていて楽しいと思いますね。

鈴木 記事で拝見しましたが、田口さんは入社後ガンプラの部門に入社されたのですね。私も実はガンプラ世代で、小学校の時にガンプラ買うのがすごく大変だったんですよね(笑)

田口 本当に申し訳ございません、鈴木さんの世代の方には、みなさんからそういうお話をいただきます(笑)

鈴木 本当に売ってなくて、がっかりしたのを覚えています。あれって戦略的にやられていたのですか。

田口 まさか(笑)売ってなかったのでなく、売り切れて無くなった時に行かれているのだと思います。

鈴木 (がっかりした表情で)そうですかぁ。

田口 そうですかって(笑)アイテムで売れ筋は当然ありましたが、当時はそれぞれをフル生産していました。

鈴木 フル生産していたんですか!?

田口 仮に世の中で一番人気なのがガンダムだとしても、ガンダムだけ作ればいいわけではないんです。ガンダムの世界観は、ガンダムがシングルヒーローで成立していた番組ではないんです。ジオン軍や連邦軍のモビルスーツ、モビルアーマーなど様々なタイプのものがあるからこそ成立しています。

メリハリの中で、バランスよくポートフォリオを組んだ生産計画になっていたんです。それがあの当時はフル生産の状態でした、本当ですよ、これ(笑)

鈴木 思わず子供時代の声が漏れてしまってすみませんでした(笑)本当に欲しかったんですよね。小学生時代に結構並んで、整理番号配られて30人くらいにしか当たらないんですよ。悔しかったなぁ。

田口 もう平謝りしかないですね(笑)

鈴木 でも今回のアクセラレーターも、それくらいキャラクターの世界観を理解している人だと、ファンが望む新しいIPの生き方を提案してくれますし、御社としてもそれを待ち望まれているということですね。

田口 IPに関してはまさにそうですね。キャラクター愛のある方と、ぜひご一緒できると嬉しいです。


「ALL BANDAI NAMCO」とは

鈴木 今年の4月1日に「ALL BANDAI NAMCO」と、大々的に変化を宣言されましたが、この辺りの想いを教えていただけますか。
  
田口 今回中期の計画を立てる時に、そもそも三カ年で立てるのが良いことなのか。この変化の激しい時代に、もうタームとして古いのではないか、という考えがありました。

将来どのようになりたいかはそれが途中で変化したとしても、一旦10年後を見据えて、3年間はバックキャストしながら、その実現性を高めていこうという話になりました。10年後に我々がありたい姿は「エンターテイメントリーディングカンパニー」で、これは元々のビジョンである「世界で最も期待されるエンターテイメント企業グループ」にも通じるものです。

現在、ガンダム、ドラゴンボール、NARUTOなど、マンガ雑誌から生まれ、アニメーション放送でさらに人気が拡大しているIPが、我々の商品・サービスの中心となっています。

さらに日本のIPが非常に良質な理由は、国内だけでそのIPの経済活動が成立してしまうほど、マンガやアニメ好きな国民性だったということです。商品化も細かいモノ作りも得意ですし、それをファンとして買ってくれる日本人も圧倒的に多くいて、それが今も継続しています。その結果として、IPの種類もたくさん生まれました。

その背景をもとに今後を見据えた時、一つは先ほどのデジタル化の潮流があります。デジタル化をベースに、世の中のライフスタイルは刻々と変化していきます。

その中で、マンガはどう変化していくのだろう。地上波テレビはどう変化していくのだろう。そして我々のポジショニングはどうあるべきか。それら考えた時に出来たのが、我々自体の変化の必要性でした。それをやっていかなければいけないと。

ただこれは全く違うことをやるという意味ではなく、日本のIPを世界に向けて価値提供していく基本スタンスは、これからも中核として追求すべきだと思います。そのためには多彩な事業を展開して、それぞれの事業が機能として、IPを最大化するために機能していく必要があります。

鈴木 IP価値の最大化をより追求していくスタンスですね。

田口 そうです。実はこのような会社は、世の中にあまりないんですよ。ゲームを扱いながら、おもちゃも本格的にやっている。さらには施設もあったり、映像パッケージも作ったり、ライブまで開催している会社は、他にはありません。

鈴木 たしかにありませんね。

田口 これからは「ゲームグループはゲームに徹して頑張りなさい」「トイはトイで頑張りなさい」「それぞれ専門性をもっと追求しなさい」ということだけではなく、各事業が相乗効果を発揮しALL BANDAINAMCOで一体となってIP価値を最大化することにより、より幅広い価値を提供していきます。

今後、世界ではさらに色々な新しいIPが生まれると思います。それを独占的に、我々が手掛けるというのは中々難しい。しかし我々は、今までIPの色々な育て方を研究しているので、IPをもっとも輝かせることができる事業グループとして、世の中に価値を提供できると考えています。

だから我々としては、「そういう事業グループと一緒にやりませんか」ということを世界的に発信して、実行していく企業になろうという結論に至りました。バンダイナムコグループは、それぞれ多彩な事業があるので、国内外で相乗効果をもたらすような関係性により一層なっていこう。それが今回の「ALL BANDAINAMCO」というメッセージです。そういう意味だってことわかってた?(笑)(対談同席中の社員の方々に向けて)

社員一同 はい、バッチリです(笑)

「原画の本当の良さを、我々はまだ作り切れていない…」バンダイナムコホールディングス田口社長が語る、作品にかける想い(後編)

バンダイナムコアクセラレーター2018

・・・